本の紹介4

かねこカウンセリングオフィスの金子です。

先日、ご紹介した森先生の3部作の3作目(森俊夫ブリーフセラピー文庫の完結編)。2部作目と同様、森先生と臨床家たちの対談集で実際の対談を聞いているようであっという間に読んでしまいました。

2作目と同様、森先生と各先生方の発言があるのですが、今回は私が気になったり、興味を持ったりした発言はこれまた不思議なことに、森先生以外の先生の発言ばかり・・・不思議なものです。これまで同様、はたまた大雑把ではありますが引用し、ご紹介させて頂きます。

「セラピストになるには」何も教えないことが教えていること

森俊夫、黒沢幸子、白木孝二、津川秀夫、中島央、東豊、東京大学医学部保健学専攻 森ゼミ.遠見書房、2015.

P102

津川:症状があるからセラピーを受けに来た。ということは、症状がセラピストとの接点ですね。だからその接点を大切にする。でも、症状によって困っているのも確かなことで、症状のせいでクライエントという役割を演じざるを得ない。だから、そこから解放させてあげる必要もある。合気道では握られて箇所があると、そこは大切に維持していきます。振りほどいたり、はねのけたりしない。そして握られたところじゃなくて、他のところを変えていきます。例えば、体の向き、肩甲骨、肘、いろんなところを変えていくと、今度は握られていた手首の文脈が変わってしまいます。そうすると握れば握るほど、その人は崩れていってしまう。力を入れれば入れるほど崩れる。崩れるってことは、クライエントの立場でいえば改善や変化ということです。症状にしがみつけばしがみつくほど、崩れていってクライエントという役割から解放される。その辺を今かなり自分の中では意識しています。つまり、多くの場合は症状を動かそうとするけれど、そうではなくて、症状は全面肯定で、動かせるところを動かしましょうということです。

P189

長沼:森先生は、「で?」って先を促して。こんなやりとりが多かったかな。ただその「で?」の後が、一緒に再現してる感じはすごくあった。私、たぶんそれと同じことを今も面接場面でやってるんです。親御さんがお子さんのことを相談に来ることが結構多かったので、「で?もしお母さんが○○と言ったらどうなるでしょう」って尋ねます。そしたら考え始めてくださる。「どうなるかな」「こう言うかも」「じゃあこんな感じで変えますね」「ああ、こんな感じですかね」とか。シナリオ三種類ぐらいなんとなく持てるようになって。面接で想定した通りには現実は絶対に運ばないから、「的なイメージ」で良い。たとえば、「未来の話とか息子さんとするとどうなるんでしょうかね。ミラクル・クエスチョンっていう技法があるんですけど――これをやれって話じゃないんですけど・・・」と全部、こちらの手の内オープンにして。「そういう感じのことを言ってみたら、どうなりそうな息子さんですか?」とかって訊いたりしてます。

P219

黒沢:森先生のように、先にシナリオありき、ということは、それは私には本当にないですね。むしろ前もって考えない。現場に入って、そこに持ち込まれてくることを、やりとりしながらとにかく観察している。たぶん動物的に。話される内容だけでなく、それを感じ取り反応していく中で、質問やセリフが瞬間瞬間に複数浮かんできて、いつ、どれを言う?って、頭の中で意外と忙しい。もちろんこういうテーマはこのような話が受けやすいっていう、学習はそこそこあるし、それを参照していることはあるだろうけど。そしてそれを超えてセリフがまさに降りてくるとき、言いながら自分で本当にゾワゾワって鳥肌が立つ。

P255

東:当時、僕の講義の受講生のほとんどの人が意味に囚われていて、そういう人たちを相手にしていたから、「意味から離れろ」というメッセージを伝えたいという意図はすごく強かったね。いったん意味から離れて自由になって、そこから新たな意味に入っていくことを伝えたかった。リフレーミングのコツやね。当時は特にそれを強く押し出す必要があって、対機説法的な方便的な講義をしていたと思う。もちろん、今も必要とあれば使う。たとえば教育関係者に講演するとして、「親はこうあるべき」「これが原因あれが原因」、そのようなことを本気でとらわれている人たちに対しては、三十年前と同じような方便話をする。そして、自分がかけている色メガネをどれだけ外せるか、それにまずチャレンジしてもらう。そのうえで、そこからまた意味の世界に入っていく。

最後に

この3部作の最後の方に、以下のような森先生の発言がありました。

P288

森:今の社会って、基本的に若い人たちに対して教えすぎやと思うんです。全く教えんかったら何もわからへんし。どういう風に教えるにしても、わかりやすく教えたらあかんちゅうことは少なくともあるよね。でもわかりにくく教えてほんとにわからんようになってもしょうがない。だから若い人にどうこう期待するというよりは、こっちが若い人にどう物事を伝えていくのかというのが、そこが多分試されているのやと思う。けっこう難題やと思う。

最近、生前追悼会でいろんな人に集まってもらって、ここで二十人くらいの先生方に集まって、いろいろ言っていただいた。その中ですごく嬉しかったのは、特に私から教わった人の、私とのエピソードで、なんか森先生の言葉が急にふっと入ってきて、いつまでも考えているんよねって。でもしばらく忘れて日常生活を送るんだけれど、でも時々またふっと出てきて、あれって何や、どういうことや。森先生は何を言うたんやということを悶々とまた考えている自分を発見するみたいなことを言ってくれた。

 

実際に私は直接、森先生の講義や授業を受けたことはありません。が様々な著作や関係のある先生方から森先生の話を聞くたびに、なんだかよくわからないけれども、「心理臨床をやっててよかったな」「なんとかやっていけそうだな」という思いに駆られます。

今回、3回に渡り、「森俊夫ブリーフセラピー文庫」をご紹介させて頂きました。お付き合い頂き、ありがとうございました。また興味深い本や面白い本などを紹介していきたいと思います。